2026.06.19

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脂肪由来のホルモン「アディポネクチン」の カロリー制限時の働きを明らかに ― アディポネクチンの機能は食事条件と性別に依存する ―

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【発表のポイント】
⚫ カロリー制限(注1)下のアディポネクチン(注2)欠損マウスモデルの解析から、アディポネクチンの働きが食事条件や性別によって異なることを明らかにしました。
⚫ アディポネクチンが、カロリー制限時の糖・脂質・アミノ酸代謝のバランス調節に寄与している可能性を示しました。
⚫ 本研究成果は、カロリー制限に対する生体応答の理解を深め、効果的な個別化栄養・食事療法を検討するための基礎的知見となると期待されます。

【概要】
 カロリー制限は健康の維持や肥満の改善に有効ですが、体がどのようにカロリー制限に適応するのかは十分にわかっていませんでした。また、脂肪組織から分泌されるアディポネクチンは、血糖値を低く保つホルモンとして主に肥満や糖尿病との関係性において研究されてきましたが、血中のアディポネクチン濃度が上昇するカロリー制限下での機能については理解が進んでいませんでした。
 東北大学SiRIUS(医学イノベーション研究所)の生島芳子講師らは、Edinburgh 大学Institute for Neuroscience and Cardiovascular Research のWilliam Cawthorn 博士らと共同で、アディポネクチンが欠損したマウスを用い
て、通常食およびカロリー制限下での代謝変化を解析しました。その結果、アディポネクチンがカロリー制限時の血糖、血中脂質の調整に関与し、肝臓での栄養利用も遺伝子発現制御を通してコントロールしている可能性を明らかにしました。また、雌と雄ではアディポネクチン欠損による脂質代謝への影響に違いが認められました。本研究成果は、アディポネクチンの機能が食事条件や性別によって変化することを示しています(図1)。今後、ヒトにおける血中アディポネクチン濃度と食事介入への反応性の関係を検討することで各個人に合わせた効果的な食事介入法の検討に寄与することが期待されます。本研究成果は、2026 年6 月18 日に米国科学誌「PLOS Biology」に掲載されました。

【詳細な説明】
研究の背景と経緯

 脂肪組織は、余ったエネルギーを蓄えるだけでなく、ホルモンを分泌して全身の代謝に関わることが知られています。その代表的なホルモンの1つがアディポネクチンです。
 アディポネクチンは、肥満では血液中の量が低下することが知られており、これまで主に、肥満、インスリン抵抗性、糖代謝異常との関係で研究されてきました。一方で、血中のアディポネクチンは、やせた状態やカロリー制限時には増加します。これには骨髄にある脂肪から分泌されるアディポネクチンも寄与します。しかし、血中アディポネクチン濃度が高くなるカロリー制限下で、このホルモンが体の代謝にどのような役割を果たしているのかは十分に分かっていませんでした。

研究の内容
 東北大学SiRIUS(医学イノベーション研究所)の生島芳子(いくしま よしこ)講師らは、Edinburgh大学Institute for Neuroscience and Cardiovascular ResearchのWilliam Cawthorn博士らと共同で、アディポネクチン全身欠損マウスを用いて、通常食と30%カロリー制限下で、体重、体組成、血糖、血中脂質、エネルギー利用、白色脂肪組織、肝臓の遺伝子発現解析等の代謝学的解析を行いました。また、代謝の応答には性差があるため、雄マウスと雌マウスの両方を対象に解析しました。
 その結果、アディポネクチンを欠いていても、カロリー制限による体重、体脂肪量、筋肉量、エネルギー消費量の変化には大きな違いは見られませんでした。一方で、血糖値には予想外の変化が認められました。一般にアディポネクチンは血糖値を下げるホルモンとして知られていますが、本研究では、カロリー制限時にアディポネクチンを欠くマウスで、空腹時および糖を投与した後の血糖値がより低くなりました。
 また、脂質代謝にも変化が見られました。アディポネクチンを欠くマウスでは、カロリー制限時の血中遊離脂肪酸の増加がより強く認められました。また、雄では通常食およびカロリー制限時に、血中の中性脂肪 (TG) を処理する能力が低下していました。一方で、この中性脂肪処理へのアディポネクチン欠損の影響は雌では認められず、性別によってアディポネクチンの機能が異なることが分かりました。 
 肝臓の遺伝子発現を解析したところ、通常食下では脂質代謝に関わる遺伝子が、カロリー制限時ではアミノ酸の分解に関わる遺伝子が、それぞれアディポネクチンの有無によって主に変化していました。
 これらの結果から、アディポネクチンの作用は、肥満や通常食の状態で知られているものと、カロリー制限時とでは異なる可能性が示されました。また、その作用は食事条件だけでなく、性別によっても異なることが示唆されました。

今後の展開
 本研究により、アディポネクチンがカロリー制限時の糖、脂質、アミノ酸代謝の制御に関わる可能性が示されました。一方で、どの臓器で、どの分子経路を介してこれらの変化が起きるのかについては、今後さらに検討する必要があります。特に、本研究では主に肝臓と白色脂肪組織に着目しましたが、アディポネクチンは腎臓、筋肉、心臓、血管、免疫細胞などにも作用するため、これらの組織が関与する可能性も検討する必要があります。
 さらに、本研究によってアディポネクチンの作用が食事条件や性別によって異なることが明らかになったため、今後はその違いが生じる仕組みを明らかにすることも重要です。
 近年、カロリー制限、時間制限食、断続的断食といった肥満や疾患の予防・治療を目的とした食事介入が注目されています。今後、ヒトにおいて、血中アディポネクチン濃度やその変化が、これらの食事介入への反応性とどのように関係するかを検討することで、各個人に合わせた効果的な食事介入法の検討に寄与することが期待されます。

Ikushima YM et al., 2026, PLOS Biology, CC BY 4.0 に基づき一部改変

図1. アディポネクチン欠損マウス(KO)解析によって、アディポネクチンの機能が食事条件や性別によって異なることが示された。

【謝辞】
 本研究は日本学術振興会 (JSPS) 科学研究費助成事業(19K16547、21K08431、JP24K11551)、日本医療研究開発機構 (AMED) AMED-PRIME

(JP25gm7010011、JP24gm6710025)・AMED-CREST (JP20gm1210011)、「再生・細胞医療・遺伝子治療実現加速化プログラム」(25bm1123063)、日本応用酵素協会FFDR、国立国際医療研究センター国際医療研究開発費 (20A1010) をはじめとする研究費支援、JSPS海外特別研究員制度、武田科学振興財団海外研究留学助成を受けて実施されました。

【用語説明】
注1. カロリー制限:必要な栄養素を保ちながら、摂取するエネルギー量を通常より減らすこと。本研究では、通常より30%少ない量の食餌を4週間与えるプロトコルを施行した。
注2. アディポネクチン:脂肪細胞から分泌されるホルモンの1つ。血糖や脂質代謝の調節に関わることが知られている。

【論文情報】
タイトル:Adiponectin exerts sex-dependent effects on lipid, amino acid, and glucose metabolism during caloric restriction
著者: Yoshiko M Ikushima#*, Kuan-Chan Chen#, Richard J. Sulston, Domenico Mattiucci, Eleanor J. Brain, Stefanie A. Fung Xin Zi, Karla J. Suchacki, Benjamin J. Thomas, Andrea Lovdel, Matthew Bennett, Hiroshi Kobayashi, Phillipd D. Whitfield, Keiyo Takubo, Andrew H. Baker, Nicholas M. Morton, Robert K. Semple and William P. Cawthorn*
#共同筆頭著者
*共同責任著者:
Edinburgh大学 Institute for Neuroscience and Cardiovascular Research, Reader, William P Cawthorn
SiRIUS(医学イノベーション研究所) 講師 生島 芳子(いくしま よしこ)
掲載誌:PLOS Biology DOI:10.1371/journal.pbio.3003821 URL:https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3003821

詳細(プレスリリース本文)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学SiRIUS(医学イノベーション研究所)
講師 生島 芳子(いくしま よしこ)
TEL: 022-717-7000
Email: yoshiko.ikushima.a5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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